実は、市役所前駅で降りたときに一番目立つのは、松山城のお堀のちょうど角にある、お袖狸を祀った祠の赤い鳥居と幟である。
「八股お袖大明神」が正式名称らしい。狸伝説の多い四国でも有名な狸で、榎の大木に住み着いてこの地に祀られるようになったのは江戸時代のことだという。子規にも「小幟や狸を祭る枯れ榎」の句がある。
以前に見たときより、鳥居も祠もきれいに塗り替えられて、新しい幟もたくさん立っている。
郵便受けまであったような。。。
お堀端に別れを告げて、市役所の前の通りを南に向かってみる。
松山の中心街には、一番町、二番町、三番町という町名と通りがあり、市役所があるのは二番町。このあたりは、銀行や大きなビルが立ち並び、その間にぽつぽつと、昔からの病院などもある。
あっという間に三番町を越えて、千舟町通りに。
千舟町の角のビルは、昔は紀伊国屋書店で、今はジュンク堂。本好きな子供だったので、紀伊国屋書店ができたときは、うれしかったなあ。ビルが全部本屋だなんて。自分に子供ができてからは、本屋でゆっくりする時間など、めったになくなったが、たまに行くとテンション上がる。
今日は時間がない(お金もない)のでジュンク堂には寄らず、千舟町の交差点を渡ると、銀天街として親しまれているアーケード街に出る。この近くのギャラリーにも、独身の頃はよく行ったりしたが、子供ができてからは(以下同文)。
銀天街を越えてさらに行くと、中の川通りに突き当たる。
中央の緑地帯の柳は、中の川通りのシンボル。川は暗渠になってるところと、流れが見えているところとあったと思うが、よくわからない。大通りを車がびゅんびゅん通ってるので、緑地帯をゆっくり見ることはできない。もっと東のほうだったと思うが、この緑地帯に子規の句碑があるはず。子規の母と妹の旧居跡ではなかっただろうか。
市役所前駅に戻ろうとして、中の川通りの角を見ると、ちょっとおしゃれな感じの中古レコード・CDショップがあり、その隣はかなりおしゃれな感じの子供服の店。もう「レコード屋」なんて言い方は死語なんだろうなと思いつつ、その「メロウメロウ」という店に入ってみる。20代の頃は、マイナーな日本のロックをミーハーな感じで追っかけてたりしたこともあったが、仕事が忙しくなってあまり聞かなくなり、子供ができてから、ほとんど音楽を聞かなくなった。
でも、息子ソウソウが歌が好きな子で、YouTubeかけながら歌ってたり、5月末まで行ってたパート先で同僚だった人たちとお昼休みに音楽の話したのが楽しかったりで、また聞きたいなーと思うようになった。家には古いCDラジカセしかないので、ウォークマンが欲しい。iPodやiPhoneもおすすめされたが、ガラケー派だし、音楽聞くだけならウォークマンでいいかなと。
「メロウメロウ」は、ディスプレイとか感じのいい店だった。今日は時間がなくて早々に店を出たが、いつかゆっくり来れるかな。
市役所前駅に戻る途中、ふと道端を見ると、三番町の角のビルの前の植え込みにどくだみの花が咲いている。こんなところにと思って近くを見ると、未央柳の花も。いやいや、紫陽花もある。少しずつだがたくさんの種類の植物が植わっているこの場所は何?と見渡すと、ビルの案内板に「公開空地」と書いてある。「こうかいくうち」と読むらしい。
公開空地とは、市街地の高層ビルなどの敷地に設けられた空地のうち、一般に開放され自由に通行または利用できるオープンスペースということらしい。公開空地についても、この場所にそれがあることについても、今まで全く知らなかった。
未央柳の花の蕊には蟻がいる。ふと見ると、散っている花の蕊には、群がっていると言っていい数の蟻。
ビルの一階に入っているローソンの手前のこれは、龍の髭の花? 俳句では、龍の玉と呼ばれる実が残っているので間違いないだろう。蛇の髭の花とも呼ばれる。
街に星街路に龍の髭の花
市役所前駅まで戻った。あまり歩いたことがない辺りだと思っていたが、意外にいろいろな思い出があった。松山で生まれ、松山で暮らしてきたのだと、改めて思った。そういえば、私の出生届も息子の出生届も、その父によって、この市役所に出されたのだった。
吟行日 2015年6月10日 梅雨曇