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浅海駅 – 駅から1時間

浅海駅

 「浅海駅」と書いて「あさなみえき」と読む。予讃線の、松山と今治の間にある小さな駅だ。 「あさなみ」という響きのうつくしさに、いつかこの駅で降りてみたいと思っていた。

 地図で見ると、駅の近くに小学校、郵便局、少し離れて海水浴場、他に特に目につくものはない。 「吟行地は何もないところがいい」とは、私の俳句の師の辻桃子先生の口癖だ。 ぼーっとただ海を見て帰るのもいいかなと思ったが、更にネットで検索すると、郵便局の近くに「浅海大師堂」、山へ入ってしばらく行くと「鎌大師」というところもある。このあたりは、松山から今治へ向かう途中の遍路道らしい。

 お昼すぎに、最寄駅の三津浜から各駅停車の一両列車に乗って、30分ほどで浅海駅に着いた。駅のホームから、浅海小学校の校舎が見える。3階建てのこじんまりとした校舎に体育館。フェンスには「輝く海と緑 笑顔の浅海小」の文字が掲げられている。

浅海駅看板 浅海駅正面

 駅を出て、まず海に向かった。国道沿いに歩いて、海に出られそうな路地に入ってゆくと、立派な石に、大きく屋号と名字を刻んだ家がある。屋号は「○次郎屋」というように、祖先の名前を取ったもののようだ。ちなみに、アナグマ先生(旦那)の実家も、海と山に囲まれた場所にあり、明治時代に家を建てたご先祖様の名前が屋号になっている。

 ほどなく海に出た。小さな砂浜がいくつか連なり、釣りボートが何艘か係留してある。人影はない。そして、やはりというか、地名そのままというか、海は、かなり浅い。
 波消しブロックもあるためか波もほとんどなくて、六月の日差しを受けて明るい碧の水の下に、きめ細かい砂地が透けて見える。小さな子供を水遊びさせるのによさそうだ。蟹がいそうな岩場もある。

六月の浜六月の波の音

浅海の浜辺

 堤防沿いに少し歩くと小さな墓地があり、その最前列に戦死者の墓が十数基、海を向いて並んでいる。普通は家ごとの墓所に建ててある戦死者の墓が一列に並んでいるというのは、村の結束が強かったからだろうか。
 終戦時に小学生だった母からは、戦病死した伯父のことや、食べる物がなかった話などよく聞かされたが、次第に母も戦時中の話をあまりしなくなった。気が付けば昭和より平成を長く生きている。

チャンバラが好きで太刀魚大好きで

句集『でこぽん』所収のこの句は、幼い頃の息子を詠んだものだ。
墓所に眠る人々も、子どもの頃、この浜でチャンバラごっこしたかもしれない。

赤い灯台

赤い灯台

波消しブロックとボート

波消しブロックとボート

 波消しブロックの上に並んでいる黒い鳥は、カラスかなと思ったが、微妙に首が長いので、カメラを望遠にして見ると、カラスではない。
鵜飼の鵜に似ている気がするから、海鵜かも。(帰ってから調べたら、川鵜ではないかと。瀬戸内海に多いらしい。ちなみに、鵜飼の鵜は、海鵜だという。)
私が近づいたせいで、次々と飛び立って行き、最後の一羽も翼を広げた。

水無月や発つとき翼高々と
たぶん川鵜

たぶん川鵜

 堤防沿いに松山方面へもう少しだけ歩くと、ちょっと広い砂浜が見えて、そこが海水浴場だろうと思ったが、遍路道のほうへも行ってみたかったので、国道へ戻った。
 道沿いの未央柳びようやなぎの花の向こうに古い木造の二階家を入れて写真を撮ろうとしたところで、カメラのバッテリー切れ。

 郵便局の近くにあるという浅海大師堂はすぐ見つかった。お遍路さんが泊まれるようになっていて、鍵は近くの店に借りに行くシステムらしい。
 中は見えないが、カーテンの掛かっている部屋が宿泊所になっているのだろう。

大師堂まで露草は白ばかり

南天の花とバケツのあるお堂

 「鎌大師」へ行く道はわからず、郵便局で尋ねた。恰幅のいい郵便局長さんが教えてくれたが、「山越えして1時間はかかる」とのこと。「とりあえず途中まででも行ってみます。」と言うと、「暑いからお気をつけて」と見送ってくれた。

 「鎌大師」への遍路道といっても、舗装された歩きやすい道で、ゆるやかな登り。腰折山という特徴のある形の山が正面に見えている。 サングラスをかけた女性の歩き遍路さんが一人、向こうからやって来られた。遍路傘とサングラスで年齢はわからないが、しっかりとした足取りで、背筋が伸びている。
 かっこいいなあ。私もいつか、足腰鍛えて歩き遍路をと思い立つ日が来るのだろうか。

 しばらく行くと、道の左側に地蔵堂があり、「浅海のお化粧六地蔵さん」と呼ばれているらしいお地蔵さまが。お化粧といっても素朴なもので、眉と目を黒い線で描き、口もとは薄い朱色で、やさしいお顔だ。年に一度、地域の人でお化粧をするらしい。

 次第に民家が減ってきて、畑の広がるのどかな風景に。こんもりと木が茂っているあたりは、古墳ではないかと思ったりした。道の傍に田植えの済んだ田んぼがあり、近づいて覗き込むと、小さなおたまじゃくしが沢山。

おたまじやくしふるんと古墳ありさうな

風早郡かざはやぐん浅海村あさなみむらの蛙の子

 完全に民家がなくなり、確かに山越えだなと思ったあたりで、行って戻ると遅くなりそうだと、残念ながら引き返すことにした。 今なら14時過ぎの電車に間に合うかと、来た道を急いで戻る。が、あと十分を切ったあたりであきらめ、一時間後の電車に乗ることにした。

 水筒のお茶で一息ついた後、ふと目を上げると、池の堤のような場所があり、草が刈られて、堤の上に登れるようにうっすらと道らしきものができている。
 登ってみると、やはりため池で、「大池改修の碑」など建てられている。

大池へ茅花つばな野薊のあざみ刈り伏せて

野薊に残る日暮の空の色

 草刈してくれていなければ登れなかったかもしれないが、茅花や野薊が風に揺れているところも見てみたかった。

 国道に戻ってさて残りの時間をどうしようと歩いていると、地域の集会所らしき場所の前に看板が。小学生が作った浅海地区のマップのようだ。
 その地図によると、浅海地区は、三つの地域に分かれていて、今日歩いたあたりは「原」という地域らしい。寺社や旧跡の場所に番号が振られていて、大師堂や六地蔵もその中にあった。この近くで行けそうなところはと探すと、「潮神様」と「荒神様」がある。

 「荒神様」は聞いたことあるけど、「潮神様」は珍しい。公民館の横の道を行くらしいので、公民館らしき建物に向かって行くと、向こうから小学生の一団が。手に手に釣竿を持っている。まだ下校の時間には早いから、クラブ活動で釣りクラブでもあるのかなと思っていたら、すっごく大きな声で口々に「こんにちはー」と挨拶してくれて、びっくりした。散歩中のお年寄りが声かけても不審者かと怪しまれるという昨今、こんなに元気な小学生の挨拶を聞けるとは。あまりにびっくりして、照れながら「こんにちは」と挨拶を返すのが精いっぱいだったが、「潮神様」への道をきいてみればよかったなと、あとで思った。

 公民館のすぐ横には道がなかったので国道にひきかえし、次の角を左に曲がって、山側へ向かう細い道を進んだ。JRの線路まで出ても、それらしい建物が見当たらないので、道を間違えたかと引き返そうとしたとき、山際を走る線路のすぐそばに、小さな祠と案内板らしきものが見えた。

 民家の横の小道を入ってたどりつくと、そこが「荒神様」のお社だった。手作りらしい木の案内板には、おおよそ次のようなことが書いてあった。
「荒神様は昔は線路の向こうの山のてっぺんにあり、一本の大きな桜の木を中心とした広場があって、花見など、人々がにぎやかに集う場所だった。広場では相撲大会もあり、近郊の村からもたくさんの人があつまって、大人相撲、子ども相撲が行われた。今も八月下旬に子ども相撲が行われている。」

荒神様の相撲で終わる夏休み

電車の音が近づいてきたかと思うと、荒神様のお社の後ろを、すごい勢いで特急が駆け抜けていった。

荒神様の昼寝揺らして列車過ぐ

 「潮神様」も近くにあるはずなんだけどなあと思ったが、もう一度国道沿いのマップを見に戻る。道はあっている。線路を越えたすぐ右側?何も気づかなかったけど。。  すみません、ありました。瓦祠というのかな、小さな家型の祠が二つ並んでいて、その前に置かれた3つの小皿には一円玉がたくさん。私も一円玉をお供えして手を合わせたら、山のほうから牛蛙の声が低く聞こえてきた。 案内板によると、「昔、このあたりは浅い海だったが、砂地に変わってゆき、砂地で野菜を作って人々が暮らすようになり、守り神として潮神様を祀った。」というようなことらしい。

 案内板をよく見ると、番号が書かれている。これって小学生が作ったマップの番号?そういえば、案内板の字も丁寧に書かれているが、小学生の字に見える。出典があるのだろうけど、読みやすくて親しみやすい文章も、観光地のありきたりなものとは一味違う。

 マップの番号って、全部で四十番ぐらいあったんじゃないかな。(ここはもしかして、伊予の遠野?)  いつかまた、他の物語も読みに訪れたいと思った。

蛙の子潮神さまに守られて

 電車が浅海駅を発ってしばらくすると雨が降り出し、車窓から見える茅花も海も、すべてが梅雨の色になった。

walk_s吟行日 2015年6月2日 梅雨入の前日

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